【専修大学三浦先生】出来事文のイントネーション

folder_open三浦先生の英語音声学

「出来事文」 (event sentence) という英語イントネーション論の分類を聞いたことがありますか? 通常の発話は,発話全体が新情報の場合,発話末の内容語(名詞,動詞,形容詞等)に第1強勢(最も強い強勢)が来ます。しかし,「主語+自動詞」の構文では,主語が代名詞ではない時,新しい情報であっても,第1強勢が述語である動詞や形容詞ではなく,主語に置かれることがあります。その発話の内容が,何かの出現や消失,あるいは災難の勃発などにかかわる場合にそうなるので,出来事文という用語で定着しました。

  1.  The KETtle’s boiling.
  2.  The PHONE’s ringing.
  3.  An ACcident has happened.

(1)~(3) は出来事文の代表的な例文です。今では出来事文のイントネーションは広く知られるようになりましたが,研究者の意見が一致するまでには時間がかかり,興味深い論争がありました。

  1.  I have a point to EMphasize.
  2.  I have a POINT to make.

(4) と (5) は同じ構文ですが,動詞が違います。そうすると,第1強勢の位置も変わります。Bolinger (1972) は,アクセント(第1強勢)は話し手が伝えたい気持ちの焦点となる重要な単語に置かれる。聞き手が十分に予測できる単語からはアクセントは除去されると説明しました。

それでは,(6) と (7) はどうでしょうか?

  1.  Hey-your COAT’s on fire!
  2.  Come on in-the door’s OPEN.

Schmerling (1976, pp. 41-42) は,主語+自動詞の構文を使って,(6) の述語(on fire)は予測可能性が低いにもかかわらず,アクセントがなく,(7) の述語(open)は,主語の door から容易に予測できるのに,アクセントが付与されることを指摘しました。

さらにシュメアリングは彼女自身の体験から (8) と (9) という興味深い例を提示しました。

  1.  Truman DIED.
  2.  JOHNson died.

1972年の12月にトルーマン元大統領が亡くなった時,彼女は実家にいて,朝起きた時に,母親から聞いた発話が (8) とのことです。トルーマン元大統領は高齢で入院中であることが連日ニュースで報道されていたという状況でした。

その翌月,職場へ車で帰宅の迎えに来た夫から発せられた第一声が (9) であって,ジョンソン元大統領は急死であったようです。

(8) と (9) はアメリカ英語なので,イギリス英語であれば,(10) と (11) になりますが,これらは説得力のある良い例文ですね。出来事文のイントネーション,つまり,主語にアクセントを付与するためには,(9) や (11) のように意外性が必要なのです。

  1. Truman was DEAD.
  2. JOHNson was dead.

当初は,主語+自動詞の構文からなる短い発話では,ニュース・ヴァリューを持つ方が一般的であるという主張もありました。しかし,Allerton & Cruttenden (1979) はあくまでも述語(文末)にアクセントが来る方が普通であって,主語にアクセントが置かれる場合は,次の3種の動詞の時だけであると論じました。①予測可能性が高い動詞 (empty verbs),②出現や消失の動詞 (verbs of (dis)appearance),③災難を示す動詞 (verbs denoting a misfortune) の3種です。

その後,出来事文のイントネーションは広まっていきましたが,このイントネーションはやはり例外です。発話全体が新情報であれば,アクセントは文末に来るのが普通ですが,出来事文の場合だけは,そうなりません。

私も学生の頃,ロンドン大学の英語学科がスウェーデンのルンド大学と共同で調査した「ロンドン・ルンド・コーパス」を使って,主語+自動詞構文のイントネーションを調べたことがあります (Miura, 1990)。そして,帰国後にその一部を国際コミュニケーション英語研究所の月例研究会で発表し,その内容を同研究所の年次報告書にまとめました (三浦, 1992)。拙い論考ですが,今ではこれは入手困難なので,可能であれば,このホームページで三浦 (1992) のPDFを公開させていただきます。

参考文献

Allerton, D. J. & Cruttenden, Alan (1979). Three reasons for accenting a definite subject. Journal of Linguistics, 15, 49–53.

Bolinger, Dwight (1972). Accent is predictable (if you’re a mind-reader). Language, 48 (3), 633–644.

Miura, Hiroshi (1990). A study of accent placement in sentences consisting of subject and intransitive verb in English. MA Dissertation, University College London.

三浦弘 (1992). 「「主語+自動詞」構文~音調核配置の検証~」.IRICE PLAZA, 2, 81–90. 国際コミュニケーション英語研究所.

Schmerling, Susan F. (1976). Aspects of English Sentence Stress. Austin, TX: University of Texas Press.

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