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【専修大学三浦先生】シェトランド

folder_openイギリス英語, 三浦先生の英語音声学

イギリスのテレビドラマ『シェトランド』をご存じですか? アン・クリーヴス (Ann Cleeves) 原作のシェトランド諸島を舞台にしたミステリーです。すでに2022年のシーズン6まで放映されました。ミステリー・チャンネルでは年に数回,シーズン1からシーズン6を繰り返し再放送しています。動画配信サービスでも視聴できます。

複雑な事件がスピーディーに展開するのでストーリーだけでも楽しめます。しかし,注目していただきたいのは俳優たちの英語発音です。主人公のペレス警部をダグラス・ヘンシャル (Douglas Henshall),マッキントッシュ巡査部長をアリソン・オドネル (Alison O’Donnell),ウィルソン巡査をスティーヴン・ロバートソン (Steven Robertson) が演じています。ともに「スコッツ語」(Scots) 方言の母語話者です。彼らは母語のまま演じています。

彼らの出身地は,ヘンシャル氏がグラズゴー,オドネルさんはグラズゴーの南東にあるマザーウェル,そしてロバートソン氏はなんとシェトランド諸島メインランドです。スコッツ語の発音とイントネーションを聴いているだけで楽しくなります。

No は「ノー」と伸ばします。Go home「ゴー・ホーム」,don’t know「ドーン・ノー」,bay「ベー」等々,GOAT母音もFACE母音も二重母音ではなく,単一母音なのです! 2, 3分の視聴でスコッツ語の特徴をいくつもメモに取れます。

ウィルソン巡査が road と発音すると,/r/ はスペイン語の -rr- のように,震え音 (trill) になって,「ロード」と早口になります。9月のブログ「ハイランド訛り」に書いたように,グラズゴー,エディンバラ,アバディーンといったローランド地方のスコッツ語では,有声破裂音 /d/ の前の母音は短く発音されます(スコットランド英語の母音長規則)。

ブリテン島とスカンジナビア半島の中間に位置するシェトランド諸島の英語も基本はスコッツ語ですが,ノルウェー語など北欧語の影響が付加されたので,現地の人たちは,シェトランドの英語は「シェトランド語」(Shetlandic) という独立した言語であると主張しています。そして自分たちは「シェトランド人」(Shetlander) であると自負しています。

私が2012年8月にシェットランドへ行ったのは,オークニー諸島での方言調査の後でした。オークニーの英語も北欧語の影響を受けたスコッツ語の一種ですが,シェトランドの方が「絶滅の危機に瀕した独立言語である」という意識が強く,シェトランド語保存会のメンバーが私の調査のために旧ツイッターで被験者を呼び集めてくれました。

オークニーとシェットランドはノルウェーとの交流が盛んです。私は危うくノルウェーまで連れていかれるところでした。オークニー諸島のカークウォル空港からシェトランド諸島のサンバラ空港までたった35分間のフライトでしたが,70席程度のプロペラ機でした。まさかその飛行機がノルウェーのベルゲン空港行きとは知りませんでした。空港の搭乗機表示にも「サンバラ行き」とはっきり示されていました。

私の座席は最後部で,座席の後ろには機内食のランチが積み上げられていて,いい匂いを放っていました。シェトランドに着陸して誰も降りませんでしたが,私が降りるのは最後だろうとのんびりしていました。するとプロペラがエンジン音を立てて回り始めました。パーサーが飛んで来て,「降りないのか」と訊かれました。「私は最後だから」と答えると,「ここではあなたしか降りないから最後に決まっている」と言われてしまいました。慌ててタラップを駆け下りました。

このようにオークニーからほぼ満席の飛行機も毎日ノルウェーへ飛んでいます。そしてシェトランドを経由しています。このような交流が古英語時代から続いています。8世紀以来のデーン人(ヴァイキング,Viking, 語源は「フィヨルドの人々」)の侵入です。島民と北欧人との国際結婚も多く,言語変容にも関連しています。

参考文献

Millar, Robert McColl (2007) Northern and Insular Scots. Edinburgh: Edinburgh University Press.

三浦弘 (2013) 「スコットランド英語母音の地域変異 ~現地録音と音響

ダイアグラムに基づく考察~」『専修人文論集』93.

DOI: https://doi.org/10.34360/00002199

三浦弘 (2016) 「スコットランド英語の二重母音における母音長規則と

フォルマント推移の型」『専修人文論集』98.

DOI: https://doi.org/10.34360/00002093

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