前回、「なぜ日本人が英語を話す必要があるのか」「英語を話せるようになるには、何をすればいいのか」についてお読みいただきました。
第2回では、第1回でお伝えした「発音」の重要性について、詳しくお伝えします。
どうして「発音」は重要なの?
まず前提知識として、音声学についてお話しましょう。
音声学とは、様々な言語において、ネイティブ・スピーカーがどのように発音しているか、その方法、音の範囲を研究している学問です。
これにより、日本語や英語はもちろん、世界各国の様々な言語には、学問上ネイティブ・スピーカーと認められる発音の方法がまとめられています。
わたしたち日本人が成長の過程で習得する「日本語」は音の区分が、英語やそのほかの国の言葉と比べてとても少なくできています。
例えば母音について、日本語は「あ、い、う、え、お」の5個の区分しかないのに比べて、英語では短母音で14個、多重母音を入れると25個前後の細かい区分があります。
子音と母音の組み合わせ(これを音声学では「モーラ」という単位で数えています)では、英語が約600個、韓国語は600個、中国語に至っては2000個もあるのに対して、日本語は70個程度なのです。
700個もある英語の発音をたった70個の発音で認識しようするとどうなるでしょう。
たとえば、apple, eye, up, about, art, の最初の音をアップル、アイ、アップ、アバウト、アート、と、すべて同じ「ア」の発音で認識することになっているわけです。
英語では、すべて異なる5種類の母音なのです。
同様に、「イ」は2つ、「ウ」も2つ、「エ」も2つ、「オ」は「ア」と共有する音を含めると、英語では3つに分割される発音を一つにくくってしまっています。
その為、25個ある英語の母音を聞いても、頭の中で日本語の「アイウエオ」に分類してしまい、聞き分けられないのです。
今度は、日本語の持つ「等時性」についてお話しましょう。
単語がモーラという母音と子音の組み合わせで構成されていることはお話しました。
実は日本語は、そのモーラにも特徴があります。
子音と母音の組み合わせですので、子音から次の子音までの間には当然母音があります。それらひとつひとつの単位の長さが、日本語ではほぼ等しいのです。
カタカナ(katakana)、アカサタナ(akasatana)、というように、日本語では母音と子音の組み合わせがほぼ一対一ですので、文字を読んだ際に母音と子音が等間隔に並んできます。
それを等時性といいます。
英語はどうかというと、長母音、短母音があり、それにアクセントストレスという発音の強さが加わって、メリハリのある発音の連続となっています。
このような英語の文章を読む際に日本語を読むように母音と子音を一対一のセットにして発音してしまうという癖がいわゆるカタカナ発音と呼ばれるものです。
逆に、「ショッピング」というカタカナを英語(shopping)で読むと、その発音記号は[ʃɑpiŋ]で、shの発音のあとの音は、指が縦に二本分ぐらい開けて発音する大きい「アとオの間」の音を発音し、カタカナの小さい「ッ」は、はいらずに続いて[p]の音になります。小さい「ッ」がはいるかわりに大きい「ア」を伸ばすぐらいの長さで、しかもお腹に力を入れてアクセントをつけます。日本人には、「ショッピング」のことだということはわかりません。
単語ではなく文になると、もっと違って聞こえます。
たとえば、Give it to him.という場合に、完全なカタカナ読みでは「ギブ イット トゥ ヒム」や「ギブ イット ツー ヒム」となりますが、実際に聞こえるはずの音は、カタカナに直してさえ「ギヴィットゥイム」になります。
Give it to him. → Give it to him.
単語と単語の音による規則的なつながり方があり、赤で示されているところは音が連結し、グレーのところは音が消えて聞こえます。
これは、学術的には「リエゾン」または「r-リンキング」と呼びます。
つまり、日本人がカタカナを期待しているときにネイティブの発音を聞いたときと同じように、なにを言っているかわからないのです。
まとめると、
- 日本語話者の認識できる発音の組み合わせは70種類と非常に少なく、他言語の音の違いを認識できていない。
- 日本語の等時性を英語に当てはめて読んでしまう「カタカナ発音」が定着してしまっている。
- 英語やフランス語での「リエゾン」「r-リンキング」を知らない、できない。
- これらの理由から、母国語が英語に匹敵する複雑さを備えた諸外国の方と比べ、基礎的な発音能力・リスニング能力が圧倒的に不足している。
このため、英語に限らず、日本人は多言語の習得が大変なのです。
逆に言えば、語学習得の基礎である発音の練習さえしっかり行えばそれをしなかった場合と比べ、劇的に語学力を伸ばすことが可能です。
それも、難しい文法を覚えたり、単語を暗記したりするようないわゆるお勉強は必要ありません。
あなたが声を出すために使っている、「舌・顎・唇・のど」の使い方をマスターするだけです。
スポーツの基礎トレーニングがもっともイメージに近いでしょう。
次回は11/9に投稿します